2011年8月23日火曜日

日本はインド病か~三國陽夫「黒字亡国」を読む




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以前、三國陽夫著「黒字亡国~対米黒字が日本経済を殺す」を読みました。


著者は「経常収支の黒字(が外貨建て資産として貯めこまれ、自国での投資に使われないこと)こそが日本のデフレの原因である」という主張を、20世紀前半までのヨーロッパの植民地経営のあり方、第1次世界大戦下の日本の経験、米ドル基軸通貨制を巡る米と独仏の抗争(片やニクソン・ショックへ、片やEU及びユーロ発足へ)、といった歴史的なエピソードを交えながら展開しています。

「経常黒字=デフレの原因」という議論自体はストレートには受け入れ難いものですが(巨大な経常黒字とインフレが並存している今の中国が反例)、いずれについても公的支出の抑制が背景にある(デフレについては別途「為替介入こそ最大の無駄遣い」で検証したとおりですし、支出の拡大それ自体がマクロ的な貯蓄超過=貿易黒字を削減する効果があります)、という私自身の見方からも上記のエピソードは興味深く、示唆に富むものです。そんな訳で、同書の一端をこの場で紹介したいと思います。

(以下は同書の要旨の一部を私なりにかいつまんだものです。)

 イギリスの植民地であったインドは、香辛料などの原材料を輸出してイギリスを相手に多額の貿易黒字を計上していたが、その輸出代金は自国通貨ルピーではなく、イギリスの通貨であるポンドで決済された。当時は金本位制であったが、インドが稼いだポンドを金と交換することを望んでも交換されず、もっぱらイギリス国内にあるイギリスの銀行に預けられた。

 これによってイギリスは、自国通貨を切り下げて高い輸入コストを負担することも、金流出に対応して金融引き締めを行って自国経済に悪影響を与えることも無く、インドとの取引を継続することができた。のみならず、赤字分に見合って創出されたポンド預金が銀行の積極的な貸出を可能にし、結果としてイギリスの経済成長を加速することになった。

 一方インドでは、稼いだ黒字を自国内で産業投資や生活向上のために使うことができなかったため、経済が低迷したことに加え、慢性的なデフレに悩まされることになった。この現象は、企業が売上代金を回収できずに売掛金を貸付金として計上することに似ている。会計上は売上として計上されても、実際には売上代金は手元に入らないため、売上が伸びたにもかかわらず、企業は資金的には苦しくなる。

 このように、ヨーロッパの宗主国は極めて巧妙に仕組んだ制度によって、それぞれの植民地の国内政治に合う方式で通貨制度を採用させ、見えないように富を移転していた。

 ここで、宗主国をアメリカ、植民地を日本に置き換えてみると、まさしく現在のアメリカと日本の関係にあてはまる。輸出依存型の経済モデルに固執する日本は、その最大の障害となる円高の進行を阻止しつつ、最大の輸出国であるアメリカ国民に日本製品を買わせるための資金を恒久的に提供してきたのである。

 第二次世界大戦後、日本と対照的な道のりをたどったのが(西)ドイツである。両国ともアメリカへの輸出をテコに経済復興を遂げたが、経常収支の黒字化はむしろ旧西ドイツの方が早かった。しかしながら、第一次世界大戦後のハイパーインフレの経験もあり、ドルを買い支えるためのマルクの増発がインフレにつながることを警戒したドイツは、アメリカの赤字垂れ流しを警戒してドルと金との交換を強行したド・ゴール大統領のフランスと手を組み、変動相場制でのドルと自国通貨との決済を甘受する一方で、のちのユーロにつながるヨーロッパ通貨制度を発足させるに至った。

(要約終わり)

同書の中で紹介されている、ヘルムート・シュミット(元西ドイツ首相)著「シュミット外交回想録」には、「ドイツ人は貿易と経済政策において、大抵は日本政府と一緒に、国際的被告席に座らされている」とした上で、「日本経済は誤った輸出依存の構造を持っており、日本がその異常に高い貯蓄と資本形成率をはるかに多く自国での投資に使い、そして一般的生活水準向上のために、そうした高い率を同時に下げることを学ぶなら、非常に有益であろう」という日本への忠告が書かれているとの事です(こちらもいずれ目を通してみたいと思っています)。



また、こうした記述を踏まえると、「協調為替介入」に本気になってくれる欧米諸国などは存在せず、所詮は日本政府の一人相撲なのかな、と思わざるを得ません(私自身は上記「為替介入こそ最大の無駄遣い」で述べたように、もともと為替介入の意義そのものに否定的なのですが・・・)。


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